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2009年 01月 26日
2009/01/26

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誰もいないところへ行きたい。遠くへ。もっと遠く、音のしない世界まで・・。あの日の僕は、全てに疲れていた。1月のある日、まだ夜が明ける前に家を飛び出した。日々の雑音を遮断できる世界まで行こう。まだ薄暗い道を走った。夢中で走った。何かに取り憑かれたように目的の地まで。目的の地に向かうまでの最中、僕の耳元にはTOM・CATのTOUGH BOYがずっと流れていた。「こんな世界壊れてしまえばいい。北斗の拳のようなふざけた時代がくればいい」なんてずっと考えていた。

家を飛び出してから何時間ぐらい経過しただろうか。僕はある山の麓(ふもと)に来ていた。そう、僕が目指した日々の雑音の遮断できる場所というのは白銀の世界=雪山だった。凍てつくような一面真っ白な雪の世界。そこにはきっと誰も居ないだろう。そう考えてこの山の麓までやってきたのだ。

山の麓から頂上を見上げてみる。高い。頂上がどこにあるのかも分からない。思っていたよりずっと高いし、しかも険しい。この山に今から登るのだ。ちょっと足を踏み外せば、足の1本や2本折れても不思議じゃない。最悪、崖から落ちたりすれば命も危ないかもしれない。

「でも僕は行くんだ」。そう心の中でつぶやきながら、しゃがんで靴ひもを固く結び直す。大きく深呼吸してから、僕は慎重に足を踏み出すことにした。一歩一歩、大地の感触を確かめるように頂上を目指した。

登山を始めてから、10分程したらロープウェイは頂上についた。ロープウェイって早いよね。無理だから。歩いて登るとか死ぬから。往復税込み2100円也。

ロープーウェイでも命の危険はあった。乗客は僕を含めて8人。スキー客と思われるカップルが2組4人 + 小さい子どもを連れた3人家族 + 場違い一人(秋葉)。小さいゴンドラに8人をぎゅうぎゅう詰めにしてロープーウェイは動き出した。子どもは正直だ。家族連れの小さい子どもが「せーまーい」とワガママを言い出す。母親が「ちょっとだから我慢しなさい」と子どもを諫める。残りのカップル2組と父親はほとんど喋らなかった。もし、あの時、他のカップル2組の誰かが、男「なんか1人多くねーか?」、女「だよねー。なんか暑苦しいの1人いるし」などと会話を始めていたら、僕は、「大丈夫、僕途中で飛び降りて氏にますから」と高度800mぐらいでゴンドラの扉をこじ開けて飛び降りていたかもしれない。そのような会話が始まる前に、ゴンドラが頂上まで着いたのは不幸中の幸いだった。

そんな思いをして到着した頂上は標高1200mの世界。見渡す限りの雪景色だった。雪山に縁のない地方に育った僕にとっては目を見張る世界だった。素直に感動を覚えた。光り輝く山々の数々。まだまだ僕には知らない世界がある。僕がもし、コーヒー豆の配合をする研究者だったりしたら、次に美味しいブレンドコーヒーが出来たら、その製品にはこう名付けるだろう。
「エメラルド・マウンテンブレンド」。
ってそういう製品もう既にあるから。お前がこのクサレ日記書きながら飲んだやつだから。

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話はうってかわって、僕が読んでいる漫画に、孤高の人という漫画がある。人付き合いが極端に苦手で、人を避けるように暮らしている孤独な青年が主人公の漫画。彼には夢がある。その夢は世界最高峰の雪山「K2」の頂点を目指すということ。

セリフが正確か記憶が曖昧なのだけれど、その漫画にこういうワンシーンがある。主人公はふとしたことから、街で偶然逢った高校時代の同級生の女の子を家で雨宿りさせることになる。雨宿りのために、女の子を家に入れてしまったものの、どう接していいか分からず部屋の隅に黙って座り込む主人公に女の子は語りかける。「知ってる…?世の中には山よりもっと楽しいことがあるんだよ?」

「じっとしてて・・・」女の子は主人公のズボンを脱がせて誘惑しようとする。主人公は一瞬たじろいだものの、女の子の手をふりほどき、こう言い残して部屋を出て行く。
「俺、山しか興味ねーから」。

今回雪山に登ってみて、この主人公の気持ちが分かった気がする。イギリスの登山家ジョージ・マロリーは「どうして山に登るのか?」とニューヨークタイムズの記者に質問された時、「そこに山があるからさ」と答えたと言う。しごく名言だ。この下界の一切のケガレを遮断した静寂の世界のすばらしさ知ってしまった僕が、漫画「孤高の人」と同じように女の子に誘惑されたとしたら、「山よりもっと楽しいこと教えてくだしゃあWWW」と自分からパンツを脱いで、ルパン三世が峰不二子にダイブするように飛びかかるだろう。ニューヨークタイムズの記者の質問には僕はこう答える。「あっちから誘ってきたんです。同意の上の行為と思ってました」。


話が逸れてしまったが、頂上からの景色は素晴らしかった。僕は頂上で夢中で写真を撮った。静寂の世界に行きたいと思っていた本来の目的なんて忘れて、夢中で山の奥へ入っていった。どれぐらいの時間(とき)が経過しただろう。何枚も何枚も撮っているうちにどんどん山は奥深くなり、廻りを見渡してみると僕一人という状況だった。風の吹雪く音しか聞こえない。まさにそこは静寂の世界だった。僕は人との繋がり・雑音を排除した目的地に到達することができたのだ。

確かに、僕は静寂の世界に来た。しかし、本当は知っていた。一切の人とのつながりを遮断して、静寂の雪山へとやってきたものの、本当は人は独りでは生きていけないということを。思えば、このブログだって独りではやっていけない。半年続いたこのブログも、コメントが1件もつかなかったら初日でやめていたかもしれない。だから僕は宣伝した。オンラインゴルフゲームで友だちに話しかけられた時なんかは、「最近、俺ブログとかやってて忙しくてゲームできないんだよね」とか、いきなり前後の文脈関係なく、聞かれてもいないのにこのブログのことをアピールした。優しい人は「マジで?ブログのURL教えて!」と食いついてきた。オンラインゴルフゲーム内でのブログ宣伝活動はすべてが順調だった。

けれども、宣伝が3人目の友達にさしかかった時に宣伝活動は挫折した。その友だちから返ってきた返事は半角で「アッソ」という短いものだった。僕という人間に全く興味がないことを「アッソ」の半角3文字がよく表していた。URLすら聞いてくれず、その人との会話はそこで終了した。
「ブログの話してんだから普通URLぐらい聞くだろ!空気読めよ!」と文句を言ってやろうかと思ったけれども、どちらかと言うと、会話の中で突然自分がブログをやっていることを宣伝しだした僕が一番空気を読めていなかった。

もし、その様子が全国ネットのTVでオンエアーとかされていたら、「秋葉系ダンスの売名行為について」などというスレッドが某巨大掲示板に立って、このブログのコメント欄は「名無し」や「通りすがり」のハンドルネームから「宣伝行為ウザい」とか「死ね」とかいうコメントが殺到し、このブログは炎上していただろう。


また話が脱線しすぎた。人は一人では生きていけないということを言いたかった。けれども僕は静寂の世界にやってきてしまったのだ。廻りに誰一人いない状態は僕が望んだことだった。そして僕は思った。「人は独りでは生きていけないけど僕は一人だ・・・」。

1m積もった雪の中に体を委ね、仰向けになって空を見上げる。このまま凍えるようなマイナス3度の景色の中で死んでもいいと思った。これがもし名作アニメか何かなら、犬が僕の側にやってきて顔のあたりをなめたりするんだろう。僕はその犬に「パトラッシュ・・・疲れたろう?僕はもう疲れたんだ。なんだかとっても眠いんだ」と語りかけたりするのかもしれない。

そういえば、我が家でも僕が小さい頃に犬を飼っていた。普段は主人である僕が家に帰ってきても見向きもしない愛想のない犬だったけど、僕が落ち込んだ様子の日なんかは、なぜか小屋から出てきて僕に愛想をふりまいたりしてくれた。動物というのは不思議なもので、人間の気持ちがわかるのかもしれない。小学生の頃、「醤油を買ってきて」と母親からお使いに1000円札を渡された僕は、何をトチ狂ったのか、袋にいっぱい詰め込まれたビックリマンチョコを買って帰ってきた。「醤油売り切れてた」と嘘までついて。

両親の怒りを買い、家から閉め出されたかわいそうな僕に、愛犬がしっぽを振って近寄ってくる。そのまなざしは僕の行為を全面的に擁護するかのようだった。僕は、愛犬の肉球や鼻を人差し指でなでなでしたりして、愛犬をかわいがった。愛犬は嫌がっていた。

愛犬は僕が二十歳の頃に天に召された。それ以来、僕は犬を飼っていない。失った時の悲しみが大きすぎることを知っているからだ。僕が何年も女の子を愛することができないのも、同じように、大切なものを失った時の悲しみが大きいことを知っているからだ。僕が最後に女性のことを好きになったのは、1ヶ月前のヤフオクの出品者。恋愛諦めて妄想の域に逃避することを覚えてしまった今の僕を愛犬が見たらあのころと同じように擁護してくれるだろうか。


また、話が脱線した。寒い・・・寂しい・・。雪の上に横たわり、仰向けになって目を閉じてみる。「どんな犬でもいいから、本当に犬が僕の側によってなぐさめてくれないかな」なんて本気で思うようになっていた。しかし、ここは富士山の半分にも満たないとはいえ、標高1000mは超えている雪山。犬なんて来るはずがない。

もう犬じゃなくてもいいや、そんな気がしていた。こんな雪山で今現在活動している動物はカモシカぐらいかもしれない。ただ、進化論によると、僕たちの祖先は海から生まれた。海でそのまま暮らすもの、陸で暮らすようになったもの、元を辿れば一つの小さな細胞だったはずだ。さっき、犬は人間の気持ちが分かると書いたけれども、カモシカだって同じ哺乳類・・人間の気持ち、つまり身も心も凍えそうな今の僕の気持ちを分かってくれるかもしれない。

目を閉じて横たわっている僕にカモシカがそっと近づいてくる。カモシカは僕をじっと見て、僕の顔のあたりをちょっと舐める。僕は目を覚まし、カモシカに向かってあのアニメの名ゼリフを語りかける。「パトラッシュ・・疲れたろう?僕はもう疲れたんだ。なんだかとっても眠いんだ・・」。人間の気持ちの分かるそのカモシカは、僕の言葉を理解することができるのだ。カモシカは、その綺麗な前足で僕の顔面を踏みつけてこう言うだろう。
「誰がパトラッシュやねんコラ。」



泣ける。ある意味、原作より泣ける。泣けるのは僕だけで、お茶の間でこんなアニメを見せられた日には家族全員失笑かもしれない。というかチャンネルを変える。「哺乳類にすら僕の相手をしてくれない・・・」そんな感覚を抱いて、また目を閉じた。

「起きて・・・!」女の人の声がした。気のせいかなと思って、そのままじっとしていると、また声がする。「起きるのよ!」

「誰だ・・僕を起こそうとするのは?」僕は目を閉じたままそう返事をした。「私は雪の妖精。あなたのことをこの山に来たときからずっと見ていたわ」。女の声はこう続ける。「あなたにはまだ地上でやることがあるの。こんなところで死んじゃだめ!」。

「うるさい!もう放っておいてくれ!キミに哺乳類にすら相手にされなかった僕の気持ちが分かるものか!」僕は心の中で雪の妖精にこう返事をした。

「いいえ、あなたにも本当は分かっているはず。答えはあなたが今日撮った写真の中にあるわ。あなたが今日撮ったものをよーく見てごらんなさい」と雪の妖精はまた答えた。

「写真?いったい、このカメラに映ったものに何があるっていうんだ?」僕は飛び起きて目を開き、回りを耳渡した。そこには氷に覆われた木々が生い茂っているだけで誰もいなかった。

「カメラの中・・・」僕は、そうつぶやきながら今日撮った画像をモニターで確認した。一枚の写真が目にとまった。そこには氷点下の気温の中で、やがて来る春を待ち、芽吹こうとしている木々の姿があった。

「俺にも春はやってくると・・?この木々たちのようにたくましく生きろということか?」そう思ったとき、また雪の妖精の声が聞こえた気がした。「気付いたようね。さぁ、山を下りるの。山を下りた時、あなたの回りの世界はきっと変わっているわ」。

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僕は山を下りる決心をした。

帰りのロープーウェイに独りで乗りながら、雪の妖精のことばかり考えていた。どんどんロープウェイの高度が低くなるにつれて、僕の中にある結論が出た。
「あれは雪の妖精なんかじゃない」。

あれはきっと、雪の妖精ではなくて、氷点下の気温の中でやがて来る春に向けて必死に生きようとする樹木の心の声だった。木の精霊の声と言ったほうがいいかもしれない。
木の精だ。つまり気のせい。



ということで、下山してからこのさえないブログを書き始めたのですが、何が雪の妖精かと。何が「山を下りた時、あなたの回りの世界は変わっているわ」なのかと。書き上がった文章を見て、我ながらついに頭がおかしくなったのかと自分でも思いました。おまけに長いし。

いちおう、このブログは写真と旅行記がメインのブログでございまして、今回は樹氷が撮りたくてお出かけしてきたのですが、人とのふれあいのかけらもない一人旅でございまして、なかなかこれを文章にしようとしても難しゅうございます。そこで、「パトラッシュと行ったことにしよう」とか、思いついたところから文章の方向性があやしくなってきまして、最後は雪の妖精とかキ●ガイじみたことになってしまいました。でも、たぶんこのブログ多くても5人ぐらいしか見てないからもういいよねということで、これからこの記事をアップするのでございます。

文章はともかくとして、雪山に行ってきた感想としては、独りでいったわりに結構楽しうございました。秋葉、冬は嫌いで活動範囲が当社比2.5倍くらいに、狭まるのでございますが、ただ、この雪の上を歩く楽しさを知ったからには、この冬はもう一度ぐらい雪景色のあるところに行ってみたいなという気がしております。

ただし、雪のあるところと言いましても、スキーの経験も、スノボの経験も、女性経験も皆無といって差し支えない秋葉のことでございますので、なかなか常時雪のあるところに出掛けるといった機会がないのが実情でございます。となれば、雪が降った日にお出かけしなければならないということになりまして、それが自分のお休みと重なったりすればよいのですが、それもなかなか難しゅうございまして、候補地はいろいろピックアップしているものの、次回目的地も未定でございます。

また、雪のあるところにお出かけした暁には、このブログで御報告してみたいと思っております。
by d-akb | 2009-01-26 22:22
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