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2009年 11月 19日
2009/11/19

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前回の記事では、神護寺でかわらけ投げをしたことまで書いた。
「えっ?そんなエピソード、僕はじめてきいたよ?」という人がいたら、
前回の記事に遡って、「ダンスさん最近ブログ頑張ってるなー。ふふ」
なんて暖かい目で前回の記事を見てから今回の記事を読んだらいいと思う。

さて、読者数5人ぐらいのブログなのに
なんか妙にテンションあがって文章書いてる自分に自己嫌悪を感じてきたところで、
以下から前回の続きに入る。

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神護寺に来た僕は、かわらけ投げを終えて金堂に戻ることにした。

早朝からの移動で僕は疲れていた。
朝食も摂らず朝早くに京都へと出発して、その移動中もずっと立ちっぱなしだった。
前日に某ゴルフゲームを1時頃まで遊んでいて寝不足だったこともあるかもしれない。
金堂に辿り着き、落ち葉と水滴のついたベンチに座って休憩をとることにする。
そのベンチに座ったことで、思いがけない素敵な出来事があったことを
これから書かないといけない。

リュックからタオルを取り出してベンチの水滴を拭い、ズボンが濡れないようにする。
ベンチに腰掛けて、リュックから「るるぶ」を取り出してペラペラとページをめくる。
「次の目的地を決めないとな…」
そんなことを考えてぼんやりしていた時だった。




「写真…撮りに来たの…?」




若い女性の声が聞こえた。左右を確認してみると僕の他には誰も居なかった。
誰に声をかけたんだろう?と今度は正面を向いてみた。
秋の少し冷たいけど優しい風が吹いて、赤や黄色の落ち葉がハラハラ舞っていた。
僕の視線の先には、神護寺金堂前の美しく色づいたカエデの木々があった。
その木々を背景にして、僕の目の前に綺麗な女性が立っていて僕に微笑んでいた。
その女性がどうして僕に話しかけてきたかは、そのときは分からなかったけれども、
その女性に声をかけられた対象は間違いなく僕だった。
色とりどりの背景の紅葉と、ハラハラ舞う落ち葉は最高の舞台装置だ。
街で見かけても「綺麗な人だな」と思っただろうその女性がさらに美しく見えた。
「バサッ」という音が今度は聞こえた。
僕が手に持っていた「るるぶ」を地面に落としてしまった音だった。

その女性に声をかけられたことで慌てたのか驚いたのか、手の力が抜けていた。
時間が止まっていた。
さっきも書いたけど、ほんとうに綺麗な女性だった。
これを書いてる今も、どうやってその女性の美しさを表現したらいいか思い悩むぐらいだ。
国語能力の無い僕が、そのままその女性の美しさを表現したら、
「地上に舞い降りた天使」とかそういう表現になりそうだった。
普通にこれからその女性のことを「地上に舞い降りた天使」なんて表現して文章を続けたら
「メルヘンチックなおっさんの表現、きんもーっ☆」とかいうコメントが来そうなので、
余計な形容はせずに記憶のままにその女性の特徴を書いてみようと思う。

大きな瞳に厚い唇、少し茶色がかった綺麗な髪、透き通るような白い肌をした女性だった。
蒼い色のコートに灰色のスカート、明るい色のブーツがとても似合っていた。
彼女の細い首からは、宮崎あおいのCMでおなじみの
OLYMPUS PEN-E・PIが提げられていた。
シンプルで小さいけれども、とても美しいデザインのデジタルカメラ。
オリンパスの技術者は、きっと彼女みたいな人に持ってもらいたくて
このカメラをデザインしたんだろう。
そんなことを思わせるほど、カメラもファッションの一部となってその女性にマッチしていた。


その女性と目を合わせていると、胸の奥が締め付けられる感じがした。


なんだか変な感覚だった。
ドクンドクンと自分の心臓の動く音を感じることが出来た。
脈拍が上がって、頬のあたりが赤くなっていくのが自分でも分かった。
遠い昔に忘れてしまっていたこの感覚・・・。
もう傷つくことは辛いからって、心の奥に封印してしまった誰かを好きになるという感覚だった。
いや、誰かを好きになるという感覚とはちょっと違うかもしれない。
この感覚をお米に例えると、コシヒカリでもなく、ササニシキでもなく、ヒトメボレだった。
さらに古いアイドルのデビュー曲に例えると、「MajiでKoiする5秒前」だった。
一目惚れ経験が初めての僕は明らかに動揺していた。
自分でもどうしたらいいか分からなかった。
5秒が経過した後、僕は立ち上がって、女性の問いとは全く関係の無い言葉を発していた。

「はっ、はじめまして!」

「写真…撮りに来たの…?」
という女性の問いに対しては明らかにおかしい回答だったかもしれない。
けれども、僕の中で何かが始まる予感がしていた。



とか、勘のいい人はすぐ分かったと思うけど完全に嘘だからね。普通に何も始まらないから。
日記書きながら、「今回の旅行でこんなことあったらよかったなー」とか
鼻くそほじりながら妄想しだしたらキーボード打つ手が止まらなくなっただけで、
自分でも、よくまぁこんな妄想を長々と書けるなーなんて思った。
このまま妄想の続きを書いて、さえない男のサクセスストーリーとして完成させて
某巨大掲示板に投稿したら、電車男みたいにドラマ化されたりしないかなーとかも考えてた。
ドラマの題名は「カメラ男」でヒロインは「もみじタン」とかでな(ネーミングセンス最悪)。

でも、所詮は妄想だった。
リュック背負ってカメラぶらさげて、一人で「るるぶ」読んでるおっさんに
声をかけるような奇特な女性はこの世界のどこもいなかった。
僕がリアルで女性に声をかけられるなんてことがあったとすれば、
某電器屋街をブラついている時に「絵には興味ありませんか?」と声をかけた後、
雑居ビルのギャラリーに連れて行って、高額な絵画をローンで買わせようとする
悪徳業者のキャッチセールス嬢ぐらいだった。
声をかけられないという点でいえば、僕はリアルだけでなく、
ネットのオンラインゴルフゲームの世界でも、友達登録をしている友達からも話しかけられず、
一人で自分のゴーストモードと対戦して遊んでいることとかもザラだった。

話が逸れた。
僕がベンチに座って一人で「るるぶ」を読んでいたところまで時計の針を戻さなくてはいけない。
さっき、「全部嘘だからね」とこの日記を読んでくれている人に悪態をついたけれども、
「写真…撮りに来たの…?」と僕に話しかけてきた人が居たことは間違いのない事実だった。
その人は、女性ではなくて70代とおぼしき見知らぬおじいさんだった。

旅行というのは不思議なもので人を開放的にさせる。
普段であれば、人見知りな僕は見知らぬおじいさんから声をかけられたりしても
簡単な受け答えをして逃げようとするのだけれど、
今回の僕は久しぶりの京都で開放的になっていた。

「そうなんです。カメラが趣味で・・・。おじいさんもご旅行ですか?」

僕は質問に答えるだけでなく、自分から話を広げようとしていた。
聞けば、おじいさんは岡山県から京都の紅葉を見に来たそうだ。
おじいさんの身なりはきっちりしていて、首からは古いフィルムカメラを提げて、
いかにも定年退職後の趣味として旅行を楽しんでいるという感じだった。
「毎年、紅葉の時期になると京都に来たくなってね・・・」。
そう言っておじいさんは微笑んでいた。

僕はおじいさんとの話をさらに広げようとしていた。
幸いにも僕は昔に岡山を旅行したことがあって、岡山のことも少しは知っていたので、
「秋の京都のお寺は綺麗ですもんね。でも、岡山の後楽園も手入れされていて綺麗そう。」
なんて、おじいさんの出身地の岡山のことを持ち上げたりしてみた。
お爺さんは、「岡山なんか京都に比べたら何も無いよ」なんて評していたけど、
ニコニコしていたので悪い気はしてなさそうだった。

「お兄ちゃんは、デジタルで写真撮ってるのかな?」
話し相手になると思ってくれたのか、今度はおじいさんが僕のほうに話題をふってきた。
「一応、フィルムも使うことはあるんですが、最近は現像めんどくさくてデジタルばっかりで…」
僕は、おじいさんのフィルムカメラを見ながら、そう答えた。
おじいさんのフィルムカメラは、良く言えば年期が入ってて味があるカメラで、
悪く言えば、店で見ればこれはまだ動くのか?と疑ってかかりそうな古いフィルムカメラだった。


僕は、お今度は僕がお爺さんに質問する番だった。
「そのカメラ…フィルムですよね?おじいさんはフィルムで撮ってるんですか?」
僕はこう尋ね返した。
手持ちの古いカメラを大事そうに触りながら、おじいさんはニコニコして僕の質問に答えた。
「これは、妻の父の形見でずっと大切にしててね・・・。」

お爺さんが持っていたカメラは妻の父、つまり義父が生前お爺さんに残してくれたものらしい。
今のお爺さんが70代だとすると、義父そのまま生きていればおそらく100歳ぐらいか。
そんな義父が使っていたカメラなのだから、おそらく30年以上前に作られたものなんだろう。
聞けば、何度か壊れかけた時もあったけれども、その都度修理して使い続けてきたそうだ。
そのカメラは日本の某有名メーカーのものだった。
僕は何十年も動き続けるカメラを作れるそのメーカーの技術に感心していた。
メーカーの技術もすごいけれど、それだけお爺さんがカメラを大切にしてきた証拠でもある。
亡くなった義父も、それだけ大事にカメラを使ってもらって天国で満足しているだろう。

そんなことを考えているうちに、お爺さんについて一つ気になることがあった。
カメラの話題が一区切りしたところで、僕はお爺さんにそのことについて尋ねようとしていた。


「今日は、奥様はご一緒じゃないんですか?」


この言葉を口に出しかけた寸前のところで僕は尋ねることをやめていた。
「義父の形見を持っているということは、お爺さんは結婚されていたはず。
定年退職されてるはずの年代だし、夫婦2人でゆっくり京都を旅行する時間はあるはずだ。
なのに、なぜ今日このおじいさんの隣には奥さんが居ないんだろう??」
この疑問を先ず、自分の頭の中で整理させてみることのほうが先決だった。

僕の脳内は、サイコメトラーEIJI(えいじ)のようにものすごい勢いで回転していて、
お爺さんの家庭についてのプロファイリングがはじまっていた。
以下、僕の脳内ので起こったプロファイリング結果を文章にして再現してみようと思う。
(便宜上、お爺さんを「じいさん」、奥様のことを「ばあさん」と表記する)。

(サイコメトラーakbのプロファイリング開始)
じいさん「おう。この季節がやってきたで。京都や!京都に紅葉を見に行くんや!」
ばあさん「あなた・・・もうウチにはそんなお金はありません・・・」
じいさん「なんやと!紅葉がワシを呼んどるんや!ワシは一人でも行くぞ!金ださんかい!」
ばあさん「二人でも一人でも無い物は無いんです!退職金も今月の年金だってあなたがry」
じいさん「やかましいわ!紅葉見た後は、高級料亭をはしごして、その後は芸者遊びじゃ!」
じいさん(タンスをひっくり返したり、引き出しを手当たり次第あけたりする)
ばあさん「あなた、やめて!ほんとうに無いんだから!」
じいさん「どっかにヘソクリ隠しとるやろ!ワシは知っとるんや!(さらに暴れる)」
ばあさん「あっ、そっその引き出しは開けないで・・・・・」
じいさん(引き出しを開けたじいさん、現金10万円の入った封筒を見つけてニヤリと笑う)
ばあさん「そっそのお金は・・・今月の孫の誕生日に美味しいものでも食べさせry」
じいさん「金あるやないかい。孫がなんぼのもんじゃ!紅葉と芸者がワシを呼んでるんや!」
ばあさん「やめて!!!持って行かないで・・・そのお金だけは・・・(ばあさんしがみつく)」
じいさん「うるさいわ!離さんかい!(じいさん、ばあさんの頬をパチーンとひっぱたく)」
ばあさん「ぶったね??? 親父にもぶたれたことないのに!!!!!」
(サイコメトラーakbのプロファイリング終了)


うん。普通にあり得ない。
こんなプロファイリングをするサイコメトラーがいたら、
FBIでも警視庁でも間違いなく初日でクビ。
プロファイリングというより、ただの根拠の無い妄想じゃねーか。
カメラ好きの素敵なお爺さんを目の前にしてこんな風に妄想してしまうのは、
よっぽど僕が人として病んでるか、僕が生まれ育った環境に原因があったかのどちらかだろう。
義父の形見を大事に使うようなお爺さんが、妻をこんな風に虐待するはずがなかった。

普通に、定年後の人生を二人で楽しむはずの旅行におじいさんが妻を連れてきていないのは
おそらくは、義父と同じく妻にも先立たれてしまったのかもしれない。
つまり、おじいさんの古ぼけたカメラは義父の形見でもあり、妻の形見でもあるのだ。
「勝手にじいさんの妻、殺すなや!」なんてお怒りのコメントが来そうだけれども、
独りぼっちの僕に話しかけてきたあたり、おじいさんの中にも寂しさを漂わすものがあった。

きっとお爺さんは、義父の形見の古ぼけたカメラのレンズを通して、
亡くなった奥様に京都の美しい景色を見せてあげていたのだ。
愛する誰かとともに、過ごせるはずだった楽しい時間。
愛する誰かとともに、見るはずだった美しい景色。
そういう意味では、今回、一人で紅葉の写真を撮りにきている僕も事情は同じだった。

よく考えてみたら全然違うし。
かたや奥様と義父の思い出のつまった形見のカメラで、
こっちは独りぼっちの思い出しか無いデジカメに「るるぶ」とリュックの男じゃねーか。
僕には他の人に嘲笑されることはあっても、人の涙腺を緩ませるエピソードが全然無かった。

話を元にもどそう。
お爺さんの家庭のことには立ち入らなかったけど、僕らは写真についての話で盛り上がった。
こういう写真を撮るにはどのレンズがいいとか、いろいろなフィルターなんかを使えば
写真の表現もいろいろ変ってくるなんていう話をしていた。

会話が一段落したときに、おじいさんが切り出した。
「そうそう。わたしはもういい歳だけど、自分のホームページをやっていてね…」
聞けば、おじいさんは趣味にしてる写真なんかを載せている個人のページを持っているらしい。
おじいさんは、カバンからボールペンと手帳を取り出し、手帳のメモ部分をやぶって
「確かこうだったな・・・」と何かサラサラと書き始めた。

httpからはじまるその文字は、おじいさんのホームページのURLが記されているようだった。
「たいしたものないけど、あなたパソコン使うんだったら、よかったら見ていって」
そう言ってお爺さんは僕にそのメモ書きを渡してくれた。
そして、さらにお爺さんは僕に向かって、こう尋ねた。


「お兄ちゃんは撮った写真どうしてる?ホームページに載せたりしてないの?」


「ホームページに載せたりしてないの?」という言葉が僕の頭の中に響いていた。
最初に思いついたのが、このブログ「愛の波動砲」のURLをおじいさんに教えることだった。
そしてその次には、僕の頭の中で「コメントが増える…コメントが増える…コメントが増える…」
なんていうこのブログの未来予想図が、幾重にも折り重なってイメージされていた。

思えば僕は、写真を他の人に見てもらいたくて、このブログ「愛の波動砲」をはじめた。
ブログなんかをやっている人は分かるとおもうけれども、
自分の書いた文章にコメントが付くなんていうのは、
ブログをやってる人にとってとても励みになるものだった。
このブログも記事にコメントしてくれる人がいるから、休みながらも一年続いたようなものだ。

「自分のブログを新しい人に見てもらえて、コメントが増えるチャンスが来た!」
やらしいと思われるかもしれないけど、僕は期待を胸に膨らませていた。
次の瞬間には大きな声で、


「googleで、愛の波動砲って検索したら1ページ目に僕のブログが出ます!」


言おうとしてやめた。
お爺さんにブログのことを伝える寸前で、僕の頭の中で「ある防衛本能」が働いていたのだ。

その防衛本能の内容は2つあった。
まず一つは、写真好きのおじいさんに自分のしょっぱい写真を見てもらう自信がなかった。
ただ、写真だけなら、まだおじいさん見られても未熟だなと思われるだけで済むかもしれない。
一番問題だと思っていたことは、僕がおじいさんにブログを教えることで
おじいさんが写真だけではなく、このブログの過去日記を読んでしまうことだった。
これまで、このブログに自分が書いてきたことを思い起こしてみるがいい。


「11/25 バイキングでビーフカレーのビーフだけ食べてお店の人に嫌がらせしました。」
「12/08 自作ラップ作ったよ。YOYOチェケラー。」
「12/26 ヤフオクで洋服買った時の取引相手がバストアップ器具使ってて(;´Д`)ハァハァ」
「01/26 雪山に独りで登ったら、パトラッシュと雪の妖精がry。」


死ねばいい俺。跡形もなくなるぐらいこの世界から消えてしまえ。
こんなもの旅先で出逢った素敵な老人に見せられない。

おじいさんの前では綺麗な僕で居たかった。
カメラと旅行が好きな爽やかなお兄さんで居たかった。
(「見た目からして違うだろ」とかコメントしようとした奴は空気読めよ!)
気がつけば僕はとっさに嘘をついていた・・・。
「ぼっぼぼくの写真なんて他の人に見てもらうようなもんじゃないんで!!」
こうやって、おじいさんに僕のブログを知ってもらう機会は無くなってしまった。


おじいさんとはその後の目的地が違ったので、もう少し喋ってから別れた。
別れ際には、「家に帰ったらホームページ見に行きますからね」なんて僕は約束していた。
その後、僕が京都市内のどこへ向かったのかは、次回の日記に書くかもしれないし
もう京都の紅葉旅行記はこの日記で終わりにするかもしれない。

今回の日記は、おじいさんと僕のその後について書いて終えようと思う。
京都から家に帰って、僕はデジカメの写真をPCに取り込んでいる間、IEを起動させていた。
アドレスバーにおじいさんからもらったメモ書きのURLを打ち込んでみる。
httpからはじまるそのURLを打ち込んだ結果、
表示されたページは空白のページだった。


存在しないページだった。
印刷された間違いのないものをもらった訳ではなかった。
紙切れに書いてあるのは、失礼だけどおじいさんのちょっと汚い字のメモ書きだった。
人間というのは間違いを犯すもので、おじいさんが書いたそのメモは
URL内の文字や記号の一部が抜けていたのかもしれない。
アンダーバーをハイフンに変えてみたり、いろいろ試してみても
表示されるのはやっぱり空白のページだった。

僕は落胆していた。
おじいさんと僕との接点が完全に切れてしまったのだ。
そして、このブログのURLをおじいさんに教える勇気の無かった自分にとても後悔していた。

どこまでも自分に自信の無い男だった。
自分が力を入れている趣味のことすら、人に見てもらう勇気がなかった。
「苦い思い出になるな…」とメモ書きを机の引き出しにしまって、おじいさんのことを思い出す。
おじいさんは言っていた。


「毎年、紅葉の時期になると京都に来たくなってね・・・」


その言葉を思い出した時、僕の重い気持ちがすこし取れた気がした。
来年もあのおじいさんは紅葉を見に、きっと京都を訪れるに違いない。

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「そうだ 京都、行こう。」

来年も綺麗に色づいている紅葉と、
もしかしたら会えるかもしれないおじいさんの笑顔を見に。

一年後、ぼくたちは赤と黄色の落ち葉の積もった神護寺の境内で再会する。
綺麗に色づいた紅葉に向かって古ぼけたカメラを構えているおじいさんがいる。
僕は、満面の笑みを浮かべてそのおじいさんに駆け寄るのだ。
僕の手には一年前におじいさんからもらったメモ書きが握られていた。

「じいさん!前に教えてもらったHPのURL間違ってるよ!!!」

そう言って僕は、はにかみながらおじいさんに声をかける。
おじいさんに見せようとしたメモ書きには、僕の手で、ある一文が加えられていた。


「愛の波動砲っていうブログやってます。」
by d-akb | 2009-11-19 22:18
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